盛岡と水沢、2つの系統がある
「南部鉄器」とひとくくりに呼ばれますが、産地は2つあります。
| 盛岡系 | 水沢系(奥州市) | |
|---|---|---|
| 始まり | 17世紀中頃、南部藩主が京都から釜師を招き茶の湯釜を作らせた | 平安末期、藤原清衡が近江国から鋳物師を招いた |
| 得意分野 | 茶の湯釜、鉄瓶 | 日用品の鋳物(鍋、フライパンなど) |
| 鉄瓶の起源 | 18世紀、茶釜を小ぶりに改良したのが始まり | — |
国の伝統的工芸品には昭和50年(1975年)2月17日に指定されました。第1次指定にあたります。また地域団体商標「南部鉄器」(登録第5102662号)では、地域の範囲が「岩手県盛岡市及び奥州市で生産された」ものと定義されています。
産地全体では事業所数74、従事者約730名、年間生産額約80億円、伝統工芸士18名という規模です。
鉄瓶と急須の決定的な違い
鉄急須の内側にはホーロー(ガラス質のコーティング)が施されています。鉄瓶にはありません。そのため急須を直火にかけると、ホーローが割れたり剥離したりします。岩鋳の公式ページも「お湯を沸かすことはできません。直火不可。空焚きをしますとホーローが剥離します」と明記しています。
| 鉄瓶 | 鉄急須 | |
|---|---|---|
| 用途 | 湯を沸かす | 茶葉にお湯を注いでお茶を淹れる |
| 内側 | 鉄がむき出し(酸化被膜を施す例あり) | ホーロー加工あり |
| 直火 | 可 | 不可 |
| 鉄分の溶出 | あり | なし |
| 手入れ | 使用後の完全乾燥が必須 | 比較的簡単 |
なぜ急須だけホーローを施すのか。急須は直火にかけず、お茶を入れたまま置いておく使い方をするからです。鉄がむき出しのままお茶を長時間入れておくと錆びてしまうため、ガラス質で覆って守っています。
湯を沸かして飲むなら鉄瓶。お茶を淹れる道具が欲しいなら急須。用途を先に決めてから選んでください。
鉄分が摂れるのは鉄瓶だけ
「南部鉄器で鉄分が摂れる」という話は広く知られていますが、正確に言うとホーロー加工された急須では鉄分は溶出しません。水と鉄が直接触れないためです。これは複数のメーカーが公式に明言しています。
鉄瓶については、及源鋳造の公式Q&Aが「微量の鉄分」が溶出し、量は沸かし方などによって変わるとしています。「1杯で◯mg摂れる」といった数値をメーカーは示していません。そう書いてあるサイトを見かけたら、出典を確認したほうがよいでしょう。
ただしこれは「鉄鍋での調理」の研究であり、鉄瓶で湯を沸かした場合にそのまま当てはまるとは限りません。過度な期待はせず、「日常的に使っていれば多少は摂れる」程度に考えるのが妥当です。
買ったらまずやること — 慣らしと湯垢
鉄瓶は買ってすぐ本領を発揮する道具ではありません。最初の2週間で「育てる」必要があります。
初回の慣らし
岩鋳の公式手順はこうです。
- 本体を軽くすすぐ
- 水を8分目まで入れ、中火で沸騰させる
- これを2〜3回繰り返し、沸かしたお湯が無色になってから使い始める
最初は金気で湯が濁りますが、正常です。火力が弱いと湯が濁る原因になるので、中火程度を保ってください。
南部鉄器協同組合は、慣らし期間を約10日〜2週間とし、この間は毎日使うことを勧めています。
湯垢(ゆあか)は錆ではありません
使い始めて5日目頃から、内側に赤い斑点が現れます。その後、白い膜のようなものが付いてきます。これが湯垢です。
湯垢が付くと湯は透明を保ち、味も良くなり、赤錆の発生も抑えられます。鉄瓶にとっては防御膜であり、育てるべきものです。「汚れがついた」と思って磨いてしまうのが、最も多い失敗です。
日々の手入れとやってはいけないこと
使用後は完全に乾かす
使い終わったら中身を空にし、フタを取って内部を完全に乾燥させます。組合の公式手順は「余熱利用、または弱火で20〜30秒程温める」。外側は乾いた布巾で拭きます。
やってはいけないこと
| やってはいけないこと | 理由 |
|---|---|
| 内部をタワシや布巾でこする | 湯垢が剥がれ、錆びやすくなる。内部には手も触れない |
| 水やお湯を入れたまま放置する | 錆と湯の濁りの原因になる |
| 強火で使う | 吹きこぼれや表面の変色を早める。中火以下で、フタをずらして蒸気を抜く |
| 空焚きする | 鉄瓶を傷める |
| 鉄瓶でお茶を淹れる | タンニンと反応して黒く変色する。お茶は急須で |
長期保管するときは完全に乾燥させてから個別に包み、新聞紙を時々交換するとよいとされています。
錆びても直せます
赤錆が出ても、それで終わりではありません。お茶で直せます。
岩鋳の公式手順は「煎茶に含まれるタンニンと鉄の化学反応を利用した金気止め」。水を8分目まで入れ、茶さじ一杯の煎茶を入れて約30分煮出します(空焚きに注意)。
及源鋳造は茶葉をだしパックに入れて20分煮る方法を案内しており、必要なら繰り返すとしています。外側は食用の椿油などを含ませた布で拭きます。
南部鉄器協同組合は、水を入れっぱなしで錆びた場合や軽度の空焚きなら、初回の慣らしと同じ作業を繰り返すことで改善するとしています。重度の場合や穴が空いた場合は産地に問い合わせを。
なお岩鋳は、急須について「鉄サビは健康に害はございません」と明記しています。錆を見つけても慌てる必要はありません。
IH対応の見分け方
すべての鉄瓶がIHで使えるわけではありません。及源鋳造は自社のIH対応基準を公開しています。
- 日本金属製品検査センター等の検査に合格していること
- 底の厚さ約5mm(通常の南部鉄瓶は3.5mm)
- IH200V/IH100Vの熱源マークが表示されていること
- 適合条件:底面直径12〜26cm、天板と底面の隙間3mm以下
使用は中火以下。IHは非常に強力な熱源のためです。及富は「ほとんどの鉄瓶がIH対応だが、機種により使用できない場合がある」としています。
主なつくり手
| 工房・メーカー | 創業 | 特徴 |
|---|---|---|
| 鈴木盛久工房(盛岡) | 寛永2年(1625年) | 南部家の御用鋳物師として召し抱えられた家系。13代盛久は国の重要無形文化財に。現在15代 |
| 岩鋳(盛岡) | 明治35年(1902年) | 県内唯一のデザインから販売までの一貫生産体制。年間100万点規模 |
| 及富(奥州市水沢) | 1848年(嘉永元年) | 8代続く工房。金型・試作・仕上・塗装まで自社一貫 |
| 釜定(盛岡) | 明治末期 | 砂と粘土で鋳型を作る「惣型(そうがた)」技法。木の取っ手が外せる鉄鍋が代表作 |
| 及源鋳造(奥州市水沢) | — | 鉄鍋・すき焼き鍋などの調理器具に強い。IH対応基準を公開 |
水沢系は日用品の鋳物が得意分野です。すき焼き鍋や玉子焼き器は、家庭のコンロでも蓄熱性の差がはっきり出ます。


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