3割ルールが規制しているもの
根拠は総務省の告示ではなく、法律です。地方税法第37条の2第2項(市町村民税は第314条の7第2項)が、総務大臣の指定基準としてこう定めています。
ここで規制されているのは「調達に要する費用」——つまり自治体が事業者に支払う仕入原価です。
返礼品の市場価格ではありません。ここが最も誤解されている点です。
だから「還元率50%」は違反ではない
具体例で考えます。ある自治体が45,000円の寄付に対して、市場価格26,400円の南部鉄器の鉄瓶を返礼品にしているとします。
| 金額 | 計算 | |
|---|---|---|
| 寄付額 | 45,000円 | — |
| 市場での販売価格 | 26,400円 | — |
| 市場価格ベースの還元率 | 58.67% | 26,400 ÷ 45,000 |
| 自治体の調達費(仮に3割) | 13,500円以下 | 45,000 × 0.3 |
| 法律上の判定 | 適法 | 調達費が3割以下なら問題なし |
自治体が事業者から13,500円で仕入れられるなら、市場価格が26,400円でも構いません。自治体が有利な条件で調達できれば、市場価格ベースの還元率は自然に3割を超えます。
なぜ安く仕入れられるのか。理由はいくつかあります。
- まとまった数量を発注するため、単価を抑えられる
- 小売店を通さない直接取引のため、流通マージンが乗らない
- 事業者側にとっても安定した需要になるため、卸値を下げやすい
- 市場価格そのものが希望小売価格で、実売価格より高いことがある
還元率が高い返礼品を選ぶことは、制度の抜け穴を突く行為ではありません。安心して選んでください。
伝統工芸品は市場価格が明確なぶん、還元率を計算しやすいカテゴリです。南部鉄器は特に高い水準にあります。
もうひとつのルール — 経費5割
3割ルールとは別に、総務省告示による「募集費用は5割以下」というルールがあります(平成31年総務省告示第179号 第2条第2号)。
こちらに含まれるのは、返礼品の調達費だけではありません。
- 返礼品の調達費(3割以下)
- 送料
- ポータルサイトへの手数料
- 決済手数料
- 広報費
- ワンストップ特例事務、寄附金受領証の発行にかかる費用
この最後の項目が重要です。2023年10月1日の改正で、ワンストップ事務費や受領証の発行費用も「募集費用」に算入されることになりました。これにより実質的な規制が厳しくなっています。
2つのルールの関係を図で整理する
寄付額10,000円の場合、内訳はこうなります。
| 用途 | 上限 | 根拠 |
|---|---|---|
| 返礼品の調達費 | 3,000円まで | 地方税法(3割ルール) |
| 送料・手数料・事務費など | —— | 総務省告示(5割ルール) この2つの合計が5,000円まで |
| (上の調達費と合算して) | 合計5,000円まで | |
| 自治体に残る額 | 5,000円以上 | —— |
令和6年度の全国実績では、受入額1兆2,728億円に対し、募集費用が約4,693億円(46.4%)。うちポータルサイト手数料が1,656億円(13%)を占め、自治体に残ったのは6,826億円(53.6%)でした。
ぎりぎり5割を守っている、というのが実態です。
還元率ランキングの正しい使い方
ここまでを踏まえると、還元率ランキングの見方が変わります。
役に立つ場面
- 同じ品目の中で比較するとき。「南部鉄器の鉄瓶」の中でどの自治体が有利かを見るのは合理的です
- 市場価格が明確な工業製品・工芸品のとき。定価がはっきりしているので計算が信頼できます
あてにならない場面
- 食品。市場価格の基準が曖昧で、算定サイトによって数字が大きく変わります
- 希望小売価格が実売と乖離している商品。定価ベースで計算すると還元率が過大に出ます
- セット品。単品価格の合計で計算されていることがあり、実際の価値と一致しません
返礼品は「使うもの」です。還元率60%の使わない品より、還元率30%の毎日使う品のほうが、実際の満足度は高くなります。還元率は「同じくらい欲しいものが2つあるとき」の判断材料くらいに考えるのが健全です。
2026年10月から、還元率は下がる方向へ
令和8年度税制改正大綱で、新しい基準が示されました。寄付額から募集費用を引いた「寄附金活用可能額」が、寄付額の一定割合以上でなければならないというものです。
| 時期 | 寄附金活用可能額の要件 | 実質的な経費上限 |
|---|---|---|
| 現在 | —— | 50% |
| 2026年10月〜 | 52.5%以上 | 47.5% |
| 2027年10月〜 | 55%以上 | 45% |
| 2028年10月〜 | 57.5%以上 | 42.5% |
| 2029年10月〜 | 60%以上 | 40% |
自治体が使える経費が段階的に減っていきます。削られるとき、真っ先に見直されるのは還元率の高い返礼品です。
すでに2025年10月にはポータルサイトのポイント付与が禁止されました(詳しくはポイント廃止の記事)。制度は一貫して「寄付する側にとって渋くなる」方向へ動いています。
制度改正は2026年10月から段階的に始まります。今年の条件が、当面もっとも良い条件になる可能性があります。


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